薄桜鬼
□黎明に見ゆ夢に落涙す
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「……そんなに、俺と一緒に過ごすのは………嫌か?」
「………意地悪です、そんなこと、私が思ってないの、知ってるくせに…っ」
「…ならば、今日くらいお前が俺を甘やかしてくれ」
こういった言葉は、彼女の本音を引き出すには相当効果的である。渋々といった体ではあるが、千鶴は一が広げた両腕の中に、遠慮がちではあるものの、そっと入り込み、身体を絡め取られる。
縁側に座り、一は華奢で小さな身体を、優しい抱擁で安心させる。いつしか、少女は彼の身体に身を任せて眠り込んでいた。そんな彼女の額に、自らの唇を寄せてから、一はなにげなく、だがこの世でたった一つの宝物の名を、ただ呟く。
「千鶴……」
その繊細で癖のない髪も。健やかに自らの胸元を擽る吐息も。―――その、すべてが愛しい人のものであるからこそ、こんなにも優しい気持ちになれる。
そうして、彼女を見つめるうち、一もまた、深い深淵の中へと沈んでいった。