薄桜鬼
□雨音響き、睦言は囁かれ
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少女を姫抱きにして家の中へ駆け込み、乱暴に箪笥を開けて、着物を引きずり出す。
ろくに身体の動かせない千鶴の身体が纏う着物を脱がすのは流石に憚られたが、彼女の身体を温めるには、既にその被服は用を成さない。
箪笥からもう一枚着物を引っ張り出し、少女の身体が自分の視線からは見えないように覆い、手探りで帯を解く。
こういうとき、着物のような必要以上に身体を触る必要のないものは、理性という蓋を抑制してくれるから有難い。
なんとか着せ替えを終わらせ、まだ敷かれてもいない布団を手早く整え、そこに少女を寝かす。
どうにか一通りのことを終えて、ほっと一息ついたが、彼女の熱は決して下がったわけではない。
水と手ぬぐいを探して、その場から離れようとして、立ち上がろうとしてくんっとつんのめった。
「………?」
目線を下へずらせば、右裾をぎゅっと掴んだ左手が、一の行動を妨げている。
「……行かないで…」
目尻から零れた雫が、肌を伝って布団にしみこんでいく。それを見つめていた一は、少々黙考した後、静かに千鶴の方へ向き直った。
「………仕方がないな」
看病で寝ずの番になることは別に構わないが、動けなくては看病するのも難しい。
「………しょうがない」
冷たい少女の体を、布団だけで暖めるのは難しい。あまり気が進まないのだが、早く治ってくれるのなら、やる価値がある。