薄桜鬼
□刹那の口付け
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健やかな寝息を立て、無垢な表情を浮かべた千鶴は、まるで眠り姫のようだ、と平助は頭の片隅でぼんやりと考えていた。
羅刹となり、新撰組から離れて二人だけの生活になったのは、数年前。あの血飛沫が飛ぶ時代に自分と彼女がいたという真実が信じられないくらいの穏やかな日々。
この身が灰と化すまで側にいたい、と何度も頭の中で反芻した言葉は………そろそろ、考えることさえ出来なくなるだろう。
彼女を一人置いて逝くのは心苦しい。だが、変若水に手を伸ばした時から決まっていた運命であるから、今更泣き言は言えない。――――なら、せめて。せめて、なにか思い出の品を残していきたかった。
懐から、此間買った簪を取り出す。桜色と紅色で装飾されたそれは、彼女の魅力を引き出してくれるだろうか。
「………次、目ェ覚めたら…」
彼女に、別れを告げなければ、ならないのだろう。
―――あまりにも、辛い現実だった。だが、それを受け入れなければならない。
「………オレ、本当に最低だ…」
もう少しの命を、彼女に打ち明けられずにいる、臆病者。……今の自分は、そう罵られても何も言えない。
「………大好きだよ、千鶴…」
そんな君に、真実を中々打ち明けられないオレを、許して。