AMNESIA
□思い馳せ、慕う明日
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「……シン、音楽鳴らしていい?」
「好きなのいれれば? そんなにないけど」
「ありがとう」
他愛ない問答のあと、彼女が並べられたCDに何が入っているかを確かめながら、目についたものがあったらしく、中身を取り出してコンポの中へと差し入れる。
そうして流れ始めた曲に、僅かにシンの眼差しが和らいだ。―――忘れもしない、この歌は。
「……なぁ、歌ってよ」
「え? 折角聴いてるのに」
「いいじゃん、もう一回聞けばいいんだし」
むぅと膨れた彼女に、シンは反論する。ならそこはシンが引いてよ、と彼女がむくれたけれど、こちらの懇願の眼差しが効いたのか、不承不承といったていで口を開いた。
刹那、過去に立ち戻り、あの光景を見た。―――そうして現実へと立ち返り、シンは淡く笑む。
あぁ。この声が。―――自分を一気に堕とした。それを再び、自覚する。
記憶は酷く脆く、儚く、曖昧だ。―――ただ、何かしらのきっかけで一気に感情を昂らせる。それはまるで―――媚薬のように。
穏やかな夢のような世界を眼裏で見た。―――そんな気がして、シンは彼女の膝に頭を乗せる。
「……シン?」
「いいから、このまま歌ってて」
歌いやめた彼女にそう返し、戸惑いながらも再び歌いだした彼女を数秒見つめると、シンはそっと目蓋を伏せた。
酔っていたい。この歌声に。そうすれば、この心地よい温もりも、傍にいるのだと身にしみてわかるから。
渋々だったというのに、歌いだして気分が高揚したのか高らかに歌い続ける少女の左手に、自らの右手を絡めた。―――あぁ、愛しい。この温かな熱が。
「………好きだ」
小さく囁かれた言葉は、単体では中々口にできないものだけど。それでも、今は溢れて仕方なかった気持ちが唇の端からこぼれ落ちたように自然に唇に載せることが出来た。
そうして、重くなっていく目蓋が閉ざしていく向こうで。
「―――――大好きだよ、シン」
最後まで歌い終わった恋人の声が、優しくそう囁いたのを、聴きとどめた気がした―――…。
+++++あとがき
久々の拍手ですっ! ウキョウさんでなくてシンだったりするんですがね。
イッキとシンどっちにするか迷ったんですが、内容の構成的にこっちの方が短く収まりそうでしたのでこちらにいたしました!
イッキさんの方は、まだ締めがうまくかけませんので、もう少し時間をくださいませ。早ければ明日か明後日にでも公開できると思います。
そのとき、どうにかして二作品ほど一緒に乗せられたらいうことないんですが…!
今同時制作中は、小太郎くん、ケテル、イッキ、平助、一、ラギ、エスト、慎司+リクエスト中のいくつかだったりと、もう多忙の身には中々きっつい状況で!
ほんとすみません。もうこっちてんてこ舞いなんで、許してくださいね!
でわでわw
お楽しみいただければ幸いですっ!!