ワンドオブフォーチュンS
□ウルーウール
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風に攫われた葉が、ひらひらと地に舞い落ち、降り積もる―――…
地表に突き出た草たちが緑色の絨毯を作り出すその上に、のどかな風景に視線を滑らせながらエストは腰を下ろした。
いつものように本を広げ、のんびりと読書の時間に勤しみはじめたエストが、それを半ばまで読み終えた頃、ふと風の流れが変わって読んでいた本のページが煽られ、自らの髪も乱される。瞳を眇めながら鬱陶しげに肌に張り付く髪を払い除けた矢先、ふと視界の隅に入り込んだ桃色の何かを、エストは思わず注視する。
「………ルル?」
その何かは、どうやら唯一心を許した少女の髪色であることを視認したエストは、何気なくその名を呼び―――駆け寄ってきているとはいえ、まだ遠いところにいる彼女を見つけてしまう自分が、随分彼女に溺れているようだと目蓋を伏せて苦笑する。
やがて、息を切らせてこちらへと向かってきたその少女は、何の躊躇いも無くエストの傍に座り込む。
「―――エスト! やっと見つけたっ」
満開の笑顔を咲かせて傍らへと座り込んできた彼女を一瞥すると、広げていた本にしおりを挟み、そっと彼女とは反対側に置く。
「………どうかしましたか、ルル」
彼女の来訪に理由がいつもついていることはないのだが、ついそう尋ねてしまうエストはそろそろ彼女を歓迎する言葉を考えておかなければならないだろうかと頭の隅で考える。
だが、いつものようにエストに会いたかった、と終わるはずだったルルの言葉が、一瞬濁されたのを聞きとめると、エストはどうしたのだろうかと視線をルルに据えた。
その視線に後押しされたのか、あるいは別の理由か―――ルルは、唇を引き結び、決意したかのような眼差しで言葉を紡ぐ。
「あのねっ! 今度技術の授業で実技テストがあるんだけど、その練習に付き合って欲しいの!」
―――たとえ無属性からひとつの属性を手に入れたとはいえ、まだそれから時を要していないルルにとって、まだその初歩的魔術も不安要素があるらしい。それを少しでも失くしておきたいと、そう思うルルの気持ちはよく分かった。
「――どんな魔法を使うんですか?」
「あのね、光のあるところでは育たない薬草の成長を促進させる魔法なんだけど―――」
「……あぁ、あれは確かに魔法の調節が複雑ですね」
以前同じことをやった覚えのあるエストは、記憶を掘り起こしながらルルにコツを教え始める。それを聞いて復唱して、杖を持ち直したルルに、エストは実践を促し―――…
それから数刻、湖のほとりで魔力が弾けるのに気づいた数人が、不安に思ってそちらに視線を滑らせたが―――それを相殺するように別の魔力がそれらを包み込むのを感じ取って、大丈夫そうだと安堵したという。