緋色の欠片

□逸る気持ちと、流れる時
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緋色の欠片

犬戒慎司.


「逸る気持ちと、流れる時」


 冬を迎えた季封村も、いまや寒気で息すら白くなり、高三の慎司は受験に必死になる同級生たちを差し置いて、ひとり足早に帰路につく。


 かつて仲間とともに通った道が、懐かしさと寂しさを入り混じらせたかのような気持ちを沸き起こらせる。だが、その道を足早に進んで、たどり着いた家で早速慎司は手紙が届けられていないかと確認する。


 ―――あった。


 表情を緩ませて、冬に似つかわしい雪だるまの描かれた手紙を丁寧に開けば、三枚もの紙にびっしりと詰め込まれた文字が羅列している。


 この手紙を書いている間、ずっと自分のことを考えていてくれたのだろうと嬉しくなって、更に表情を崩した慎司は、足早に自室へ籠り、珠紀の手紙を読み始める。


 いつも近頃の出来事からはじめ、慎司に会いたいという言葉で終わる手紙だが、もうじき冬休みを迎えるからか、会いたいの最後にはいつ帰るかが書かれてある。


「……帰ってくるのはイヴ、ですか」


 顔を上げて、飾られたカレンダーを見つめる。その日まで、後数週間といったところか。


「……先輩に、僕も早く会いたいです」


 そう呟いて、慎司は机の引き出しからレターセットを取り出して、ペンを取った―――…。











 珠紀は手にした手紙を何度も読み返して、大切に引き出しの中へしまいこむ。慎司との文通は九ヶ月目に差し掛かり、手紙も間を空けずにやりとりしているからか、既に三桁を超えた。その一通一通は、大事に引き出しの中へしまいこんである。


 たったひとつの年の差で、一年を共に過ごせない恋人は、今一体どんなことをしているのだろうかと、すぐに夢想してしまう。


「………後、四ヶ月…」


 彼の手紙には、後四ヶ月で自分に毎日会えることになるだろうと、いや、なってみせると、そう書いてあった。それだけで、寂しくても気持ちは同じであることが分かって、安堵する。


 カレンダーには、赤い線が日ごとに二本増える。……彼に手が触れる位置まで行くことができるのも、後二週間ちょい。


「……早く、会いたいな…」


 逸る気持ちとは裏腹に、流れる時間はあまりに遅い―――…。




+++あとがき

慎司と珠紀のペアは年の差で一年だけ遠距離恋愛なんだから、きっとお互い切ない思いをしてるだろうなという感じで書いてみたけど…
これ、もしかしたら続編書くかもしれません(爆
クリスマスイベント企画はいろいろと盛りだくさんになりそうで既に体力持つかなー、と心配している作者です。

でわでわw

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