緋色の欠片

□募りゆく願いの常動曲(ペルペトゥム・モビレ)
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 ゆるやかな流れとともに、募りゆく願い。


 ―――君と、共に。


 君の柔らかな微笑みを、ちょっとした仕草を、誰にも見せたくはない。そう、願ってしまう自分は、随分欲深くなってしまったと思う。









「祐一先輩っ」


「……珠紀。どうした?」


 選択していた授業を終え、教室を出た佑一は、そこに待っていた珠紀と鉢合わせした。


「すいません。英語の辞書を忘れたので、貸していただけませんか?」


「……少し待て」


 鞄の中を探り、取り出した辞書を手渡せば、顔を綻ばせて珠紀が笑う。


「ありがとうございます!」


「いや。……午後の時間は俺もその辞書を使わなければならない。すぐ返してくれると嬉しい」


「わかりました。それじゃあ、失礼しますねっ」


 慌てて階下へと向かう少女の背を見送って、祐一は息をついた。
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