緋色の欠片
□綴る歌に想い込め
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涼風が、部屋に滑り込み、寄り添う二人を包むかのようにその身体を撫ぜた後、颯爽と過ぎていく。
手取り足取りとも言うべきだろう態勢で、祐一と珠紀はひたすら視線を机に並べられた教書とノートに注いでいた。
「……じゃあ、ここは断定の助動詞なりと、過去の助動詞けりを使って訳すんですね?」
「そうだ。………そして、次の分には形容動詞のなりがある。見分け方は分かるな?」
「は、はいっ」
後ろからかかる吐息に何度か意識を持っていかれそうになりながらも、珠紀は必死に明日の授業についていけるよう、予習をしっかりやらなければと、自らを叱咤する。
先輩であり、知識も秀でた恋人は、からかっているのか、それとも大真面目なのか、よく分からないが兎に角手取り足取り教えてくれるので、かなり集中するのが大変だ。
―――そう思うが、嫌なわけでもないので、文句を言う必要も無く。
そんな中、ふと現代語訳を完成させた珠紀は、その文章の意味に、心をときめかせた。