S.Y.K
□御題<白雪の聖夜>【香り立つ花蜜】
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【蘇芳&玄奘】
「香り立つ花蜜」
沈黙が、降って来る。
(き、気まずい…)
胸のうちでそう思いながら、玄奘は目の前にいる恋人の表情を伺った。その顔には、明らかに憤りの色があった。
「………ねぇ」
「は、はい」
「玄奘さ、自分が可愛いって自覚してる?」
頬杖をつき、蘇芳は青筋を浮かべたまま、不機嫌な調子の声で萎縮している彼女に問う。しかし、返ってきた答えはあまりにも無自覚を際立たせていた。
「そんなことありません。私より素敵な女性は他にもたくさんいます」
(やっぱり…)
盛大にため息をつきたい気分だったが、辛うじて堪えた。彼の脳裏には、先ほどまで玄奘に絡んでいた二人の男の話に尽きる。
待ち合わせ場所に行き、そこにはひとりで自分を待っていたはずの玄奘が、二人の男に絡まれていた。玄奘は持ち前の度胸で頭から食って掛かっていたが、そこに仲裁にはいった蘇芳としてはあの二人のスカした面を一発殴りたいと本気で思ってしまった。
確かに、玄奘は可愛い。今日だって、クリスマスだからと、少しでも褒めて貰える様に、と考えたのが目に見えるほど、めいっぱい頑張ったことが服装からも髪型からも伺える。だが、それを一番先に言いたかったのに、なんとナンパしていたあの男どもに先を越された。悔しいことこの上ない。
そんなことを悶々と考える蘇芳の傍ら、玄奘はむすっと頬を膨らませた彼が、あまり機嫌が芳しくないことを見て取って、ため息をついた。
「……何故、こんな良き日に機嫌を悪くするのです?」
「………げ、玄奘?」
愚痴を零した玄奘に気付き、驚いた蘇芳がこちらに振り向く。その顔が青ざめたことに気付いたが、玄奘は構わず続ける。
「蘇芳と久しぶりに二人きりでいられるというから頑張ったのに、どうして怒るんです?私はただ、蘇芳と一緒にいられるというだけでどれほど嬉しかったか…っ」
一気にまくし立てる少女の涙で濡れた瞳を見つめながら、蘇芳は心の中でやはり彼女には叶わないと苦笑した。
彼女はただ、自分と過ごす時間をなにより大事にしている。―――その言葉を聞けただけで、十分だ。
「あー、ごめん。ちょっと、さ。玄奘が男と話すのはやっぱりやだなーって思って。俺、結構嫉妬深いから」
「え」
「つーまーり。俺の知らないところで、男と親しげに話したりしているのは嫌なの。俺の知らない間に、毒蛾にかけられてちゃ世話ないし」
「す、蘇芳以外の人を好きになるはずありません!」
「ん。分かってる。けど、これは俺の気持ちの問題だし」
笑いながら、蘇芳は玄奘を引き寄せる。抱き締めたその身体に、少量、手にしていたそれを吹きかけた。
「? …いい、匂い…」
「ん。やっぱ玄奘にはこういった甘い香りがぴったりだな。俺の眼に狂いはなし、と」
満足げに笑った蘇芳が、玄奘の手に香水を握らせる。
「ほら、玄奘のために選んだんだから、これから毎日つけろよな?」
「え? え?」
混乱している玄奘に笑いかけ、蘇芳はその身体を持ち上げる。
「す、蘇芳?」
「それでは、俺からのクリスマスプレゼントは済んだことだし、今度は玄奘からプレゼント貰いますかー」
「え」
「今日は俺以外の男と話してたことから、お仕置きも含めるよ?」
「―――っ! 放してください、蘇芳!」
「だーめ」
屈託無く笑う蘇芳は、赤面する玄奘を見ながら、新年もこうであれたらいいと、そんな風なことを思っていた。
+++++あとがき
蘇芳はですね、s.y.kの中でもお気に入りのキャラなんですよ。
なのに、初めて玄奘と会ったときの格好がまずかったです。
「何故、主人公と出会うときの格好があれなんだ……っ!」と本気でうなりました。
でも、やっぱりs.y.kの中では玉龍の次に好きなキャラです。