ワンドオブフォーチュンF

□Thank you for teaching love.
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 君に伝えたい言葉がある。


 たったひとつだけ、だけどどんな言葉よりも大切な思いの詰まった言葉を。






 窓から差し込む光に背を向け、穏やかな気候に包まれる日常に足りないものの姿を探して視線を彷徨わせながら、エストは静かに本のページを繰る。


 窓の向こうにある陽が高いことを両手を使って数えるくらいには見上げて確認したかもしれない。けれど、幾らそんなことをしても今起きている現実が変わらないことは事実だった。


 ―――彼女が、傍にいない。いや、姿すら今朝からずっと見かけていない。


 風邪だろうか、と心配になっても、あいにく彼女と同室の少女とは遭遇しないし、何よりその少女は今日は午前中のみの授業だったらしいく、午後の授業しかなかった自分とは入れ違いになって捕まらなかった。


 なんの手がかりも無い彼女の行方に、限りなく不安になりながらも、それ以上探す術が無かった。それで逸る心を落ち着かせるために空き教室に入り、いつものように本を読み耽ろうと試みたが、如何せん心配で内容が頭に入ってこない。


「……今日は、此処までにしましょうか」


 言い訳のように零した言葉に従うように、エストは席を立つ。いくら心を落ち着かせようと試みても上手くいかないのなら、この静謐な空気に包まれたこの場にいる必要は皆無だ。


 こつこつと靴を鳴らして、エストは扉の向こうに消えていく。


 閑静の広がるその教室に残されたのは、彼が座っていた椅子に残された、仄かな温もりだけだった―――…
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