ワンドオブフォーチュンF
□レーゾン・デートル
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理由なんて大したものじゃなくてもいい。
今此処にいて、彼女が幸せだと笑ってくれる。
―――それだけで自分の価値を見出せるのが、これほどにも嬉しいんだ。
ほとりの傍に根を張り、天へと向かって大きく育った木々の葉を透かして、陽光が若葉色となって地表に降る。それに加えて木漏れ日も降り落ちて、白と若葉の二種の光が鮮やかなグラデーションを生み出してエストの手にある本を美しく彩った。
その光で彩られた本のページを繰りながら、エストはひたすら来訪者の姿を待ち望む。
「………来たようですね」
ふと顔を上げて、何とか視認することの出来る桃色の髪を見つけて、本を閉じて座ったまま近づいてくる少女を待つ。
やがて表情が読み取れるほどの距離になったとき、彼女の頬が上気しながら喜色を称えているのを見て、いったいどうしたのかと眉宇を顰めた。