ワンドオブフォーチュンF
□紡がれた物語・分岐1
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『―――それは、遥か昔の物語。
ある大陸の遥か北方に、水の魔法を得意とする闇に落ちた魔法使いによって、ひとつの国が氷付けになり、永久の眠りに包まれてしまいました』
アミィが舞台の傍らでさらさらと物語の前略を読み上げていく。
『それによって、人々は魔法使いを“恐ろしき力を秘めた存在”であると考え、魔法使いを抹殺しなければと結論を出したのです』
アミィの声が、だんだんと震え始めた。―――当然だ。引っ込み思案の彼女に物語の解説などという長丁場の台詞を言わせているのだから。
それでも、舞台の上には出ないで舞台の傍らでマイクを持って解説をしている上に、台本を持っていてもいいのだから、一番楽な役でもある。
『そして、人々に命を狙われ続けた魔法使いたちは、共存が不可能であると知って、そもそもの元凶、氷付けとなった城、ロウゼル・エーベル城のある大陸へと身を潜めたのでした。それを知りながらも、人々はその大陸へと踏み込むことを恐れ、魔法使いたちは難を逃れたのです』
「……エスト、もうすぐ出番よ、頑張って!」
「……言われなくても分かっていますが、誰か代わってやろうとは思ってくれないんですか」
ひそひそと舞台裏で恨めしげなエストの声が響く。そんな中でも、アミィの演説ともいえるナレーションは進んでいく。
『それから魔法使いが恐ろしいものであるという意識の根付いたその国で、ひとりの少年が目の前で母親と父親を盗賊に殺されたことによって、潜在していた闇の魔力を暴発させ、魔法使いの生き残りであると仲の良かった友人、近隣の人々に恐れられ、殺されかけられながらも、その身をぼろぼろにさせながら、氷葬の城と名づけられたロウゼル・エーベル城のある大陸へと、逃げ込んだのです―――』
「ほら、頑張ってっ」
ルルに背を押されて、舞台へと歩み出たエストが真ん中に立つと同時に、舞台の上が灯りによって明るみの存在になる―――…。
(……なんで僕が…)
諸々の文句が胸中を占めているが、台本を渡されたと同時に役決めのためのくじの引きが悪かったのだからどうしようもない。
エストはひとつ息をつき、ゆっくりと口を開く。
『………どうして、僕はこんな力を手に生まれてきたんだろう―――』
両手に視線を落して、ぼそりとそれだけ呟くように零してから、エストは周囲を見回す。
『……ここが、話に聞く大陸なんだろうか……随分ひっそりしているけれど…』
声に微かな戸惑いを滲ませ、そう言う自分に、微かな敬服さえする。こういった演技が自分で出来るとは思わなかった。
『………それにしても、寒い…。僕は、此処で死ぬのかな……』
襟元を掻き合わせ、慣れない口調でひたすら台詞を紡ぐ。