ワンドオブフォーチュンF
□君が笑ってくれるなら
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ワンドオブフォーチュン
エスト=リナウド.
「君が笑ってくれるなら」
闇属性となって、エストが古代種のふたりに特別授業を受けることとなって幾らかの授業を受講しなくなっても、数個程度なら受ける授業が重なることはある。
「エスト、これはどうすればいいの?」
「……どれですか」
恋仲となってからというもの、彼が意図的に離れていた席も、今では隣同士になるようにしている。
同時にルルの技術と知識はエストが面倒を見てくれることで向上したのは嬉しいが、それ以上に彼の傍に授業の間でもいられることがルルにはとても嬉しかった。
仲睦まじいふたりの様子は、若干他の生徒―――主に独り身の連中である―――には、目の毒だったが。
「………ということは、これでいいの?」
「ええ、その通りです」
正解だったことが嬉しくて、思わず微笑すれば、エストも穏やかに笑み返してくれる。
この時間が何より愛おしい。そう思うのは、きっと私だけではないはずだと、ルルは思った。
「………一体何の用です? アルバロ」
ルルと別れ、ひとりで古代種たちの許へ向かおうとしていた矢先、目の前に立ちふさがった長身の男を、エストはねめつける。
「いやぁ、ルルちゃんと恋人になってから、随分と丸くなったね、エストくん」
「……あなたには関係ないことです。退いてください」
「本当、ルルちゃん以外には冷たいよね。ルルちゃん限定の優しさを、もう少し俺にも分けて欲しいよ」
「……………」
更に冷ややかな目線を投げかけられたにも関わらず、アルバロは飄々としている。……本当、この男は厄介だ。
「それで、聴きたいんだけど、もうすぐクリスマスじゃない? エストくんは、ルルちゃんに何あげるつもりなの?」
「……なんで親しくもないあなたにそんなことを話す必要があるんですか」
「いや、だって興味があるし」
「……言うつもりはありません。だから退いてください」
残念、とそれだけ言って道を明け渡すアルバロの横を足早に通って、エストは息をつく。
「……クリスマス、ですか…。そういえば、そんなものもありましたね……」
アルバロに言われなければ、おそらく忘れていただろうイベント。……いや、彼から聞かなくてもルルから言われていたかもしれない。
「………全く、今年の終わりはお金を大量に使う羽目になりそうです」
そう呟きながらも、エストの唇には小さく笑みが形作られる。
彼女が笑ってくれるなら、それすら悪くない。―――そう、思って。
++++あとがき
エストは過去のことがあるからか、こういったイベントは間違いなく「どうでもいいこと」の類に入っていそうですが、
ルルのためならと何か用意してくれそうな感じもします。
というか、思うんですけど学院の生徒って一体どこからそんな金を持ってくるのかが不思議です。
やっぱ仕送りでしょうかね…?