ワンドオブフォーチュンF
□キミの耳元で睦言を囁き
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―――その日は、随分疲れていた。
だからかもしれない。普段は読書をいそしむその静かな場所で、エストはひとときの安らぎの中へと身をゆだねた。
ふと、頬を撫でた風が冷たいことに気付き、エストはぼんやりする視界がはっきりしてくると共に、あたりが藍色の帳に覆われかけていることに気付いた。
「……随分、眠ってしまっていたようですね」
思わず漏れた呟きに遅れ、エストは急に肩にかかった重みに首を傾げて横に視線を滑らせた。
「……ルル?」
小さな寝息をたて、彼の肩に寄りかかってきた少女の名を、エストは呆然と呟く。一体、自分が眠ってからどれほど経った頃にここに訪れ、共に眠ってしまっていたのだろう。触れた彼女の手は、凍てついたのかと錯覚するほど冷え切っている。
「……起こしてくれれば良かったのに、何故起こさずに眠ってしまったんですかね、この人は」
彼女が聞いているはずがないのに、思わずこぼれた本音はどこか刺々しさがある。
…眠っている彼女にさえ、風邪を引かないだろうかと素直に気にかけられない自分に嫌気が差す。