薄桜鬼

□香涼に映えし気高き花
1ページ/5ページ

 陽射しの眩しい常夏に、突然彼女は倒れた。


「―――千鶴っ! おい、千鶴、俺が分かるか?!」


 動揺する平助を、慰めてやれるほどの気力さえ出ず、千鶴は青ざめた顔で笑って見せた。そんな表情さえも、今の彼には心配を煽らせる要因でしかなかったようだが。


 無茶を重ねた身体を、平助は横抱きにして寝床へと運ぶ。


 ―――何故、気付けなかったのだ。


 時折、この鈍感さに苛立ちを覚える。かつては武士として一人前と認められ、一隊を持つ最年少の幹部のひとりであったというのに。


 羅刹となってから、彼の身体は陽に弱くなった。しかしながら、彼女とこの安息の地へと腰を下ろした頃から、かつて人間であった頃の生活と、何ら変わらない生活を送れていた。


 だが、それでも羅刹の身である故に、昼寝をしてしまうのは否めなかった。最近は、日向で暖かな温もりに抱かれて眠るのが日課になっていたから、彼女はその間に自分を起こさないよう細心の注意を払いながらも、その身体が不調であるというのに、働いていたのだ。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ