薄桜鬼
□記憶の迷走
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木漏れ日によって生まれた二つの影が重なり合う。その影を風が吹くことで大樹がさざめき、ゆらゆらと二つの影の合間を縫うように揺れる。
肩にもたれかかり、掌を絡めあい、静かに大好きなひとの温もりを感じていた少女は、羅刹となって短くなった髪に、少しだけ残念に思う傍ら、何故か遠い何処かで見たような懐かしい感覚を覚えた。
そう、この髪は、遠い昔に―――…。
「…千鶴、どうした?」
身じろいだ少女の動きに反応して、船を漕いでいた平助は、即座に覚醒する。寒いのだろうかと思った彼とは違い、千鶴は穏やかに笑んでいて、別段寒さで震えているわけではない。
ただ、彼の覚醒に乗じて、もう少し甘えようという気分になったのか、空いていた左手を平助の腕に巻きつけてきた。
その仕草に照れたように顔を高潮させるものの、表情はどことなく嬉しそうな平助に、千鶴はふいに呟きに似た問いを投げ掛けた。
「……平助くん、初恋は、いつ?」
「初恋? んなもん聞いてどうすんの?」
虚を突かれたのか、呆けたような顔で純粋に問いかけてくる彼に、千鶴は微苦笑する。
「千鶴が気ぃ悪くする話はあまりしたくないんだけど…」
「大丈夫。話してほしいだけなの」
大好きな少女の頼みとあらば、無下にできるはずもなかった。
多少の抵抗はあったものの、平助は黙考して記憶を彫り探る。
「………そうだな、あれは確か、秋だったかな…」