薄桜鬼
□八重咲きの桜と君
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―――穏やかな気候が続く春も半ばを過ぎた頃、八重咲きの桜が見えるその縁側で、平助は穏やかな風が頬を撫でるのを感じながら、のんびりと過ごしていた。
羅刹となってから三年という時が流れ、平助の体を蝕む毒の存在すら記憶から薄れた。それは、あの凄まじき激闘の日々とは離れて、平穏な日々を過ごしているからこその勘の鈍りともいえるかもしれないが。
「平助くん」
突如かかる声の方へと振り向けば、お盆に和菓子と茶器を載せた少女の姿を認めた。陣取るように座っていた縁側をするすると左へと体を動かして、少女のための場所を確保する。
平助の動きに合わせる様に彼の右側へと腰を下ろした千鶴は、お盆をふたりの間において、縁側から見えた桜を見て瞳を和ませた。
「………満開になるのは、いつだろうな」
「もうすぐだよ、きっと。今でさえ綺麗なんだから、きっと満開は素敵だろうね」
他愛のない会話でも、心底楽しそうに喋る彼女を見ていると、心から彼女を愛おしいと思う。それは、かつて彼女を好いていた同胞たちにも譲れぬ気持ち。