薄桜鬼

□御題<手ぇつなご?>
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【平助&千鶴】



 とたとたと、軽やかな足音がする。



「平助君っ」


「のわっ」


 突然後ろから抱きつかれ、平助は驚いて持っていた包みを落としかける。あわあわと両手で彷徨わせ、床にぶつかる寸前のところで何とか掬い取る。


「………お、驚かすなよ。 危ないところだったじゃん」


「ご、ごめんなさい…」


 萎れたように項垂れた千鶴に、平助はどうしたものかと天を仰いで嘆息する。


 ―――想いはまだ通じていないが、屯所内唯一の女性であるそのひとを好きだと自覚したのは随分前。…いまだ進展もないのはいささかどころかかなり悲しい。


「……。…それより、いきなりどうしたんだよ」


 後ろから抱き着いてくるなんて、余程のことがない限り千鶴はしない。


 そう思って聴けば、千鶴はそうだったと顔を青くする。一体なんだと思えば、遠くから聴きなれた仲間の声が聞こえた。


「……総司、ね」


 振り仰ぎ、遠くからきこえてくる声の持ち主が、また何かやらかしたんだろうとは直感できた。現に、総司の名を口にした瞬間、後ろから抱きつく格好だというのに、人目を憚らず一層強く抱きついている。


「………一緒にいてやるから、とりあえずこの腕はなしてくれる?」


 流石に廊下で(本当は男女だが、千鶴は男として通されているため)男同士でこの体制は、いらぬ誤解を受ける。そのことに思い当たってか、それとも平助の言葉を素直に実行したのか。千鶴はすんなりと離れていく。 励ますようにして、普段共にいるひとと同じようにその頭を撫でる。ほんのりとだが、その頬が朱に染まるので、多少こちらが照れ臭くなる。


「………じゃ、俺の部屋に行くか」


「………ま、待って…」


 か細い声が自身を呼びとめ、振り返ると少女は駆け寄って自身の右手を左手で握る。


「…へ、部屋に行くまででいいから…こうしてて、いい?」


「…………」


 赤面する平助だが、しかしこれは一気に進展するチャンスかもしれないと思う。


「…へ、部屋までだからなっ!」


「うんっ」


 小さく、ありがとうと下から聞こえて、知らず平助は嬉しそうに穏やかな表情をしていた。










 そうして、二人の想いは通じ、自然豊かな静かな場所で、過ごすことになるのも……後もう少し先のこと。

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