薄桜鬼
□語られる詩
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身体が、熱い―――…。
「……おい、あいつはどうした?」
「まだ起きてこないけど? どうしたの、土方さんってば」
「いや、茶を飲みたいと思ってたんだが…斉藤、お前見て来い」
「御意」
立ち上がり、部屋から一時退去する一を見送って、歳三はふぅと息をつく。
最近は忙しい。それはもう、猫の手を借りたいほどに忙しい。だが、副長であるがゆえに責任感から免れぬため、どうしても精神的にも肉体的にも疲労が溜まっていく。その疲れを唯一癒すのは、先ほど見送った一が探しに行った、彼の人のみである。
新撰組が諸事情により匿っている隊内唯一の少女―――それが、雪村千鶴である。
愛くるしい笑顔に、少しばかり落ち着きがなく、多少危なげな動きをとってしまう、可憐な少女。
少し前、麗かな春の日差しのなか、舞い散る花を見上げる桜の散った頬に、触れたいと思ったことは、心の中で段々と膨れている。
「土方さん、顔にやけてますよ」
冷たい一喝を受けて、歳三はやっとはっとした。振り返れば、にこやかだが少しばかり殺気を立ち上らせる青年がいる。
「………総司。いたのか」
「いましたよ、最初から。僕のこと、忘れてたのそっちでしょう?」
くすくすと笑いながら、翠緑の瞳を細め、彼は言い放つ。
「いったい誰のこと考えてたんです?」
その問いに、内心舌打ちをしつつ、お前にいう必要もねぇと突っ撥ねて、やり過ごそうとした矢先。
「―――副長。………雪村が、熱を出して倒れています」
突如やってきた報せに、思わず腰をあげてしまった。