薄桜鬼

□黎明に見ゆ夢に落涙す
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「……嫌です」


「何故だ」


「……恥ずかしいからです…っ」


 持ち帰った仕事も手際よく片付け、久々の休みは一の機嫌を早々に悪くさせるものだった。


「……俺が休みのとき、お前が何故働く。今日くらい家事を休んでも罰はあたらんだろう」


 大体、雑事など膨れ上がって行くものだ。それを怠らず、毎日こなそうとする千鶴の精神はとても畏敬の念を抱くに値はするが、夫がたまに二人で過ごしたいと我侭言っているときくらい怠っても別に構わないでないか。



 悶々と膨らんでいく気持ちを押え切れるはずもなく、ただ一は目の前の少女を見つめる。


 恥ずかしいと言って、木目細やかな白い肌に熱を持たせ、千鶴は何度か口を開閉するが、大したことも発することが出来ずに、落胆したように肩を落とす。


 そんな彼女が折れるしかなくなる言葉を、一は卑怯だとは思ったが、彼女と一緒に過ごすためだと割り切り、その決定的な一打を放った。
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