薄桜鬼

□陽だまりの温かみ
1ページ/3ページ

 久々にゆっくりとした時間だった。まだほんのりとした温もりに、平助の顔も仄かに赤くなっている。


 のんびりと廊を歩いていた最中、丁度角を曲がるところで小さな身体と激突する。


「………ふぅっ…あたた…」


「ご、ごめん! 千鶴! ちょっとぼーっとしてて」


 両手で顔を押さえる少女を、平助は自分から引き剥がし、どこか赤くなっていないか確認しようとして―――視線が交差する。


「だ、大丈夫だよ。………あ、それより平助君」


「ん? 何?」


「駄目だよ、湯浴みの後ちゃんと拭かないと風邪ひいちゃうよ?」


 頭さげて、と言われて素直に下げれば、頭に載せていただけの手拭で千鶴が丁寧に水滴を取り去っていく。


「平助君は幹部なんだから、体調管理はしっかりしないと駄目だよ?」


 同じ目線からそういわれ、知らず平助は顔を高潮させる。そんな平助に気付かず彼の長い髪から滴る雫を拭い続けて数分後。


「…はい、終わり」


 漸く姿勢を正せた平助を見上げて、千鶴は笑う。


「今度はちゃんと拭いて出ようね」


 陽だまりのような温かみのある笑顔を最後に見せて去っていく少女を見つめながら、平助は手拭から仄かに残る彼女の香りに穏やかな気持ちにさせられた。







おまけ
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ