薄桜鬼
□温もりに寄り添って
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小脇に抱えた書―――内容は幕府のこれまでの罪人を裁いた際の律などである―――を落さないようにしながら、一は平助の部屋を目指していた。
早めに理解したいと言っていたから、まだ朝餉には時間がある間に必死に読み込めば、それなりに彼のためになるだろう。黙考しながらも、足は止まらずに彼への部屋への道を辿っている。
暫くしてたどり着いた部屋に、一は躊躇いもなく入ろうと襖を開けた。
「………」
踏み入れかけた足をそっと戻し、そろそろと襖を閉めてからひとつ息をつく。
……再び、襖を開けた。
「……………」
今度こそ完全に硬直しきった一は、向こうからやってきた足音にも反応できない。
「どうした、斉藤」
「…副長、俺は夢を見ているのでしょうか」
一の口から零れた言葉に、歳三は怪訝な顔をしてから、彼の視線を辿って―――やはり、一と同様に凍りつく。
「あれ? 土方さんと一くん、ふたりしてなに固まってるの?」
「…平助の部屋に何かあるのか?」
遅れてやってきた左之助と総司が、ひょっこりと平助の部屋をのぞいて―――…。
「……やるなぁ、平助」
「うん、すごく斬りたくなるよね、この光景」
微笑みながらも、総司の声音は酷く低い。しかも、目を細めている原田の雰囲気も冷たい。
「………総司」
「うん、わかってるよ」
二人の男は、遠慮などという言葉はあっさりと蹴散らして、ずかずかと部屋の中へ入り込んだ。