翡翠の雫

□触れた指先から溢れる愛しさ
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 木々のざわめきに、鳥が翼をはためかせる音が重なる。


 涼風が室内を駆け抜け、自らの膝に頭を乗せて眠る少女の髪を弄んだ。


 激動の日々が終わり、のどかな毎日を送れるようになった。


 穏やかな気候に恵まれるようになった村で、克彦は最近小太郎とともに高千穂家へ訪れることが多くなっていた。


 もちろん、理由は件の姫と恋仲になったからである。


 かなり姉に傾倒しがちな弟を抑えるため、常に小太郎を連れまわし、自分はしっかりと珠洲とともにいる時間を獲得している。以前は旅に連れまわすつもりのなかった小太郎を、今では自分から連れ出すようになっているのだから、随分な変わりようだ。


 それでもそれに文句を言わない小太郎や母がいうには、以前より纏う空気が柔らかくなったので、今の方がずっといいらしい。


 あの闘いから微笑を零すことの多くなった自分を、以前の自分からすればさぞ理解に苦しむ姿だろう。壬生の血に縛られていたかつての自分は、今の自分を許容できるほど肝要でないことくらいは理解していた。


「………それも、仕方のないことだが」


 呟きながら、頬に掛かった少女の髪を退けて、眠る少女の柔肌に触れた。指先を撫ぜる吐息の熱さと、頬から伝わる人肌の温かさが、胸中にも何か暖かな感情を生み出してくれる。
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