ワンドオブフォーチュンS

□I'll stand by you all the time.
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 愛しい人を大切な人たちのもとへと連れ帰り、数週間が過ぎた。


 あの時代で見てきた忌まわしきものすべてを理解しながら、それでも強い意志をもって帰還してからも真摯に問題に挑み続け、魔法士となった後も彼女の目はどこまでも澄んで、一度怒りのみで闇に落ちかけた自分とは違って清らかな心そのものだ。会えなかった三年間に送られ続けた手紙の数々も、過去の歴史を経験してもなお目指した道を突き進み、幼い頃からの夢を叶えるために努力していることが伝わってくる文章が連ねられ、その端々から彼女の芯の強さを、清らかな光を感じるものだった。


 それは、故郷へと戻ってきて強く感じられるほどに―――…。


「レーナ・テラ。地よ、どうか恵みの力を植物に与えて―――」


 紡がれた律に呼応し、ゆっくりと芽吹き始めた命を見出して、村の人々が歓喜の声を漏らして瞳を輝かせる。


「あぁ…! これで冬を超す分の食糧が確保できる。ありがとう、お嬢さん」


「いいえ。役に立てて良かったわ!」


 最高魔法士としての資格を得ながら、得た知識から研究をするわけでもなく、教師として新たな後任を生むわけでもなく、ラギの故郷―――田舎へと移り住んだルルの魔法の力は、慎ましい生活を送る村人たちの日々の蓄えを増やすための力として役立てられるようになった。


 そんな彼女を“変わり者”だと言う声は大きい。たまに出稼ぎに出る度に彼女の話が誇張したものとなっているのを耳にするし、魔法使いの中でももっと相応しき場所があるだろうにと残念がる声や、自分の知識が他より劣る事実を見るのが嫌だったから逃げたのだろうと嘲る声もある。


 それを聞いて腹が立ったりはするが、結局は自分より優秀な人材がいるという事実を噂によってもみ消してしまいたいのだと考えるようにした。―――要するに、結局は自分が優秀でありたいと願う人物たちがひがんでいるに過ぎないのだと。


 そう考えられるようになったのも、やはり大人になったこともあるかもしれない。また、そんな卑屈な考えしか持てない人物たちに憐れみにも似た感情が沸いたが。


 ルルのラギの故郷での生活は彼の祖父母に迷惑を掛けないようにと、慎ましいものだ。甘いものはないから控えるようになったし、食事もあるだけの量を見て一気に口の中で流し込むのではなく、ゆっくりと噛み締めるようになった。環境によって、人の生活は随分変わるものだという感想がラギの胸中を駆けた。


 小さな山村ゆえに死活問題となる食料の維持という願いとしては他愛ないものを常に気にかけながら、周りの人々に食料が与えられるように自分も極力手元にあるもので我慢する。そんな彼女が誇らしく愛おしく、だがしかし少しだけ腹が立つことがあった。それは何か、と問われるのなら。


 ―――三年。その年月は決して短いものではなかったということだ。
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