ワンドオブフォーチュンS

□ずっと聞きたかった言葉
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 ―――見つけた。


 溢れた吐息が、熱くなっているのが分かる。目の前が、急にモノクロから鮮やかな色で彩られたのが分かる。


「ソロ……っ」


 抱き寄せた温もりが、縋り付く両手の感触が、抱き寄せた華奢な身体が、偽りでないことが分かって、ソロはようやく息ができた気がした。


 ルル。ルル。ルル。


 声に出しても言い足りない想いが、胸中でうずまきながら何度も彼女の名を叫ぶ。


「会いたかった…っ」


 繰り返し届かない相手に対して抱き続けた思いが、漸う形として言葉にされたのはたった一言。―――されど、今の気持ちを何よりも再現するもので。


 君が会えたらもう充分満足だ。―――そう思っていたあの日々が、今度は、彼女との満ち足りた生活を送りたい、という欲望へと切り替わっていく。


 それは、果てのない気持ち。―――古代種という感情薄き種族の枠組みの中から、抜け出せる要因となった気持ちから生まれていく感情。


 ついにペルーに口を挟まれて、彼女は恥ずかしがって自分から一度離れようとする。それすらも、距離を取られているようでもどかしい。


 億を超えたかもしれないほどの時の流れを辿って、ついに自分の許へと戻ってきた愛しい人を、手放せるほど大人な感情を持ち合わせてなどいない。


 それでもようやく落ち着きを取り戻せば、彼女は自分を連れてミルス・クレア魔法院へと赴きたいと言い出した。ソロが“頑張って”くれたのだと、あの時代を知る者たちに伝えるために。


 彼女が望むのならそれを叶えたかった。彼女が喜んでくれるのなら笑顔でそれを受け入れられた。―――自分の世界は、既に彼女を中心として回っているのだから。


 繋いだ手から伝わる熱が、伝染するように自らの心を温めていく。……それすらも、心地よい。


「ねぇ、ルル」


「なぁに? ソロ」


 笑顔で自分の顔を見るために仰いだ彼女に、柔らかな微笑を浮かべながら。


 ソロは、そっと伝えたい気持ちを口にする。


「……ありがとう、ルル。―――大好きだよ」


 幾度か目を瞬かせ、ルルはやがて自分の好きな満面の笑みでこう応えた。


「私こそ、ありがとう。頑張って生きてくれて。―――私を、待っていてくれて、ありがとう、ソロ」


 そうして、一度言葉を切った彼女は、少し照れたようなはにかんだ笑みで付け加える。


「……私も、ソロが大好きよ」






 ―――それは、ずっと聞きたかった言葉。


 頑張って生きてでも、その口から聞きたかった、愛情に満ち溢れた―――…。






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