ワンドオブフォーチュンS

□Only you are seen.
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「それは仕方がないよ。僕は少しでも長くルルの傍にいたいんだ」


 そのためなら、いくらでも彼の学院の前で待ち続けることが出来るから。


「………本当に、店のチラシを持たせて配らせた方がいいような気がしてくるから仕方ない」


 ただ無為に時を過ごすより、そうしてくれたほうが店を預かるものとしては大助かりだ。―――まあ、ひとつ問題があるために遂行するのが難しいが。


「……元守護役の立場を利用して、奇跡の双子にチラシ配りの許可を貰ってこい、と思うことがなくもない」


「? ペルーがそういうのなら、一応聞いてみるよ」


「……………冗談だからやめてくれ、と思わなくもない」


「そう。 それじゃあ、聞かないでおくよ」


 にこにこと、笑って言葉を返してくる主を、ペルーはじっと見つめる。はるか昔に自分が成し得なかったことをいとも容易くやり遂げ、遠い未来のこの時代に帰還していった少女は、今や主の唯一無二の存在となった。


 それは長命ゆえに種を残すことにあまり意欲的でない古代種としては珍しいことだったが、ペルーはその変化を好ましいものとして受け止めている。―――こうして、自然の流れに任せた【死】を拒んだことを、後悔しないのは、その一因もあるはずだから。


 そんなことを思い耽っているうちに、時計を何気なく見た主は穏やかに笑って言ってくる、と告げた。時計を見れば、時間が幾らか経っていたらしい。今度は引き止めることはしない。


 店の外へと消えていく姿を見送り、ペルーは笑う。表情の変わらない仮面に魂を封じても、こうして自分が笑っていることは浮き立つような心があるから丸分かりだ。


「……長生きも、悪くない」


 何百年の年月を経て、こう思える自分はきっと幸せなのだろうと、ペルーは思った。
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