ワンドオブフォーチュンS
□君といる時間それすら
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半分ほど食べ終えたところでそれだけ言うと、応じたのか今度はルルが自分も食べようとバスケットの中の食べ物に手を伸ばす―――が。
「……エスト?」
制された手と恋人を交互に見ながら、困惑を露にするルルに、エストは視線を投げかけて、含んだ笑みを浮かべる。
「……僕の食事を手伝ってくれたんですから、僕もあなたの食事を手伝いますよ」
「え………」
目を見開くルルの口元へ、エストは掴んだサンドウィッチを突きつける。
「ほら、口を開けてください」
「……え、エスト?」
「どうしたんです? 食べないんですか?」
いや、食べるつもりではあるが。―――彼の行動が、あまりにも。
ぱくぱくと魚のように口を開閉させ、驚愕を露にするルルに、エストは笑う。
「残念ながら、止めるつもりはありませんよ。……僕だって、いつまでもあなたに世話をやかれるつもりはありませんから」
年下扱いをするなと遠まわしに言われた気がしながらも、彼の突拍子な行動に受身の大勢を取ろうと早鐘を打つ心臓を宥め、口を開く。
「あ、あーん」
口の中に広がった香ばしい味が、彼の行動が自分の見た幻でないことをしっかりと伝えてくれる。
それを噛み締めながら、ルルは目の前の満足そうな表情を露にする綺麗な顔を見つめ、心の中で卑怯だと反論して顔を赤くした―――…。
君といる。
それは、思い出という愛しい宝物になる、大切な時間―――…。
あとがき