ワンドオブフォーチュンS

□伝えて壊れるのが恐いよ
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 ―――恐ろしかった。彼女に、すべてを打ち明けてしまうことが。


 自分で制御すらできない膨大な魔力。それは、異質ゆえに壊れた思考しか持たぬ連中の目こそ魅了するが、この学院に通う生徒たちは、なんの力も持たぬ人々は、それを知れば恐怖に彩られた瞳で、表情で―――きっと自分を、拒絶するだろうから。


 だから逃げたのだ。彼女が自分のすべてを知る前に。守ると言って―――“守る”を理由にして、彼女がすべてを知り尽くす前に姿を消した。それが、彼女に嫌われたくないと、無意識下で思っていた自分が犯した、愚かな行動の、わけ―――…。


「……まさか、こちらへ来てから自覚するとは………なんて、馬鹿げてるんだか……」


 自嘲の笑みが、こぼれ落ちた。―――さらりと頬を滑った人房の髪が、彼の得た属性に見合ったような暗色をしていることが、さらにエストの気分を沈ませる。


「………これで、よかったんだ」


 深く息をつき、エストは自身に言い聞かす。彼女が自分を嫌悪するかもしれない賭けに、賭けて絶望をする前に、もしかしたらという愚かな希望すら潰えるこの場所へと赴いてよかったのだと。


 枯れ果てたと思っていた心のどこかで、何かが軋み、壊れていく音を聴きながら、それでもエストは動かない。―――今動いたところで、自分の異質さを思い知り打ちひしがれるだけなのだと思うから。


 少しずつ、少しずつ。………だんだんと闇に馴染んでいく自分の、存在がなくなっていくその瞬間を待ち望む。―――その中で、ただ。


 彼女と過ごした幸せな日々を、夢に見る―――…。





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