ワンドオブフォーチュンS
□沸騰して乱れた思考
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ほとりへと足を運んだルルは、思っていたとおりにその場にいた恋人を見つけて瞳をきらめかせるが、眠っていることに気づいて慎重に足を運ぶ。
風に遊ばれる髪に触れ、その柔らかさに思わず口元を綻ばせ、ルルは飽くことなくエストの髪を弄り続ける。
そんなルルの様子に、髪を引っ張られたりしているうちに、強制的に夢の世界から帰還を余儀なくされたエストは、狸寝入りを決め込んでいるうちにどうしようかと困惑状態から抜け出せずにいた。
彼女が手を伸ばして、遠慮もなく自分に触れてくる。そんな彼女の行動が突拍子なさすぎて、どう反応を示せばいいのかという思考に取り付かれ、どうしても混乱から免れることができない。
結果、見事に不貞寝を決め込んでしまっているのだが……。
「エスト」
ふと、思考に沈む中、呼ばれた名に、エストは意識を向けた。
伸ばされた手が、頬に触れてきた。起きていると気取られぬよう、身構えることもできずに固まるエストは、ふと頬に触れてきた感触に思考を停止させる。
「エスト、大好き」
頬から離れた唇が、遠慮もなく自分の中にある何かを掻き立てる言葉を吐き出してくる。そして。
投げ出された自分の足に重みがかかり、自分のものではない呼吸が一定のリズムを刻み始めたのを理解して。
ばちっと瞳を開き、止まらない顔の熱を煽るかのように、彼女が触れた頬に手を添えて沈黙するエストは、思わずといったように言葉を絞り出す。
「………あなたというひとは………!」
人を煽るだけ煽っておいて、挙句の果てに眠るとはどんな鬼畜だ。
乱れる思考をどうすることもできず、エストはしばらくほとりのそばで赤面していた―――…。
あとがき