ワンドオブフォーチュンS
□恥ずかしくてまともに顔が見られないから
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項垂れるルルが、ぼそりと言葉を零す。
「前の学校では、一日の授業で二桁の人数の生徒は怪我をさせてしまったの」
「……二桁…」
「魔法薬では薬どころか毒薬みたいな色のおかしな効能の薬を作ってしまうし、技術の授業では爆発起こしてしまうし」
「………」
救いようが無いほどの失敗の繰り返しに、郷里の教師にとうとう投げ出されて、ここへやってきた。
その事実を思い出し、ルルの眼差しに憂いが宿る。ラギも、彼女がここへ来た経緯を聞かされたときのことを思い出し、沈黙を落とした。
だが、逡巡の後、彼は無言で彼女を抱き寄せる。
「―――え…」
掻き抱いた彼女から匂う柔らかな香りはどこまでも甘い感覚をラギに齎す。だが、戸惑う彼女を抱き締めたのは、それを堪能するためではない。
「………どれくらい失敗したっていい」
誰かの言葉を借りての励ましなど、あまりにも自分を偽っている感じしか覚えない。―――ならば、自らの思うままに言の葉を紡ぐまでだ。
「お前と一緒の授業くらい、幾らでも受けてやる」
昼寝の時間を割いても、どれほどの面倒を覚えても。
「俺が全部、お前の失敗による被害を防いでやる」
好きな女が困っているとき、手助けしてやりたいという気持ちはしっかりと胸にある。彼女の魔法が引き起こす失敗を、自分の魔法に対する耐性が高いこの体質を使って防ぐ方法など、幾らでもある。
彼女が失敗を憂うなら、幾らでもそれを防ぐために自分の時間を割くことなど苦痛ではない。
「………だから、頼れ」
「え……」
守りたい女を助けるくらい、片手間仕事のように簡単にやってみせる。―――それくらい、やれないでどうする。
「……明日の授業はなんだ?」
「………魔法薬学と、技術……あと、知識……」
「なら、魔法薬学と技術のときは一緒にいてやる。―――だから、安心しろ」
「―――――うんっ」
そうして恥ずかしくなって目を逸らしたラギに、ルルは裏山に来た当初よりずっと明るい笑みを零したのだ―――…。
あとがき