ワンドオブフォーチュンS

□不安を消そうとした夜
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「願い事、あったのに」


「願い事?」


 鸚鵡返しに問えば、ルルは頬を膨らませて抗議してくる。


「だって、私はまだ、エストを頼ってばっかりなんだもの!」


 頼られたことは本当に些細なことばかりで、大して役にたった記憶が無い。


「………好きな人の役に立ちたいって、思うんだもの……!」


 そう言い放ったルルが、しかしまだ実力不足だということが分かっているからかあからさまに気落ちする。そして座り込んでしまったルルに、エストは嘆息と同時に片膝をついてからルルの頭に手を置き、励ますかのように頭を優しく叩く。


「………エス、ト?」


「……どうにもならない歳の差からきた、年上としての当然の行動かと思ってたんですが……そういうことなら、もう少しだけいろいろ頼ることを考えて見ても構いません」


「え……」


 目を瞬かせるルルに、エストは視線をあらぬ方向へ向けて小さく呟く。


「好きな人の役に立ちたいという気持ちは、僕だって同じなんですから」


「……? 何て言ったの?」


「…なんでもありません」


 聞き返してきたルルに首を振って再度同じことを繰り返すことをやんわり断り、エストは座り込むルルに手を差し伸べる。


「帰りますよ。星は捕まえ損ねましたが、そういった願いなら言ってくれれば出来る限り叶えてあげますから」


「………本当?」


「ええ。だから、今日はもう帰りましょう。疲れたので休みたいです」


「―――うんっ」


 そうして捕まえた手は、普段より幾らか熱を感じたのは―――気の所為かもしれないけれど。


 それでも、その日の帰り道、ルルの胸には暖かな感情が溢れていたのは、確かだった。





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