ワンドオブフォーチュンS

□不安を消そうとした夜
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「……去年と同じ場所で、いいんですか?」


「うん! ここがいいの!」


 にっこりと笑うルルが、魔道書を抱えていないエストの右手に自身の腕を絡ませる。


「ふふっ」


「………なんで笑ってるんです」


「だって……去年はこんなこと出来なかったもの」


 まだ互いの想いは通じていなくて、仲のいい友人として流れ星の観測に付き合ったことを思い出す。確かに、恋人同士ではなかったから、この頃もしどちらかが想いを寄せていても、遠慮でこういったことはできなかっただろう。


 彼女の言葉の意味を理解して、エストも淡く笑う。たとえ日々が何気なく過ぎていっても、やはり変わったモノは確実にある。―――それも、随分自分にとっては幸せな形に。


「……あ、流れ星!」


「……今年は早いんですね。急ぎましょう、逃しますよ」


「う、うんっ」


 土を蹴り上げ、駆け出した二人は、星を追いかけるのに夢中になるが、土を蹴り上げる度に爪先に掛かる重みで靴が柔らかな土に沈むたびに足を捕られ、動きを鈍くさせる。


 それでも懸命に手を伸ばしてそれに触れようとしたが―――残念ながら、星との距離は手の届く範囲ではなかった。彼らの前で、それは木の幹にぶつかって弾けて消え失せる。


「……捕まえるの、失敗しちゃった」


「……まあ、二年連続で捕まえられるのは奇跡の確率だと思いますから、当然だと思いますが」


 そう零せば、ルルはその言葉に同意を示した後、複雑な面持ちで言い放った。
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