ワンドオブフォーチュンF

□たなびく夕凪の裾を手に
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 鮮やかなライトブルーの空も西の山際に沈んでいく楕円の太陽が最後の力で鮮血に染め上げ、浮かぶ灰白色の雲も段々とその色を鮮やかな橙へと変えていく。その光景が過ぎ去れば、濃藍の帳がかかり、浮かぶ白銀の月が、閑静に包まれた町並みに目に優しい月光を降り注がせるのだろう―――…。


 それがいったいラティウムの閑静な町並みの上に、どれほど優しく降り注ぐのだろうか、と何故かふと思ったエストは、つい空を仰いでしまう。


 それに気づいたルルは、どうやら空を仰ぐエストが見ているのは夕日だと思ったらしい。笑顔で彼に倣うように空を見上げたルルは、その美しい光景に瞳を和ませた。


「図書館で遅くまで勉強して正解だったわ!
 エストとこんな綺麗な夕焼けが見れたもの!」


「……そうですね」


 同意を示したエストに、ルルは笑顔を振りまきながら繋いだ手に力を込める。そんな彼女の行動に目を瞬かせ、エストはふと視線を彼女のほうへと向けた。


「………どうかしましたか?」


「エストと中々共通の話題がないから、嬉しかったの!」


 同じ闇属性を纏い、魔法も似通ったものを扱うようにはなったが、それでも彼と自分の知識は天と地ほどの差が歴然とするほどにまだまだこちらが未熟だ。ユリウスほどの知識があればもう少し違うのだろうが、知識の乏しいルルにとってその話題で盛り上がるのは非常に難しい。


 かといって他に彼と共通の話題は何かと考えても、食の話はそれらにあまり気を遣わないエストに持ちかけても意味が無いし、他に関しても、残念ながらまったくといって趣味の乏しいエストと共通の話題は皆無だ。


 ゆえに、中々同じような感覚を共有することが出来ず、それが少し寂しく感じていたルルには、やはり彼の返答を聴いて少なからずも彼と同じ気持ちを共有できたと感じて嬉しくなった。―――つまりは、そういうこと。


 そんなルルの言葉に、思わず恥ずかしさで顔に熱の集まるエストは、今の刻限が黄昏であることから、せめて、この顔の赤さがばれないように、赤い夕陽が背景に溶け込んで顔の赤さを隠してくれたのなら、と思う。


「ふふっ、エストと一緒な気持ちになれたなら、今日はすっごく幸せな気持ちのまま眠れそうっ」


 そうしてルルが嬉しそうに笑いながらさらに自分の指と絡めあった手に力を再度加えたことに気づいたエストは、視線を泳がせながらも彼女に倣うようにその手に力を込めた。


 途端、少し驚いたように目を瞬かせてこちらを向いたルルが、一瞬の後完全に顔の筋肉を弛緩させて踊るような足取りでエストを引っ張り始める。


 驚くエストだが、そんな彼女の楽しげな様子に微苦笑を漏らして、彼女に促されるままに歩調を速める。


 そんなふたりを見守るのは、不恰好に潰れて地平線に溺れている太陽だけだ。


 そうして一日を終えたふたりは、それぞれ違う場所で、同じ夢の世界で幸せなひとときを過ごすのだ―――…。






あとがき
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