ワンドオブフォーチュンF

□I want to sleep embracing you closely.
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 天空を駆け回る風が地表へと駆け下りて来て、湖の上を疾走してその水気をいくらか奪取した後、ついでともいうように水面を叩いて波紋を生み出す。


 それから水面から地表へとたどり着いた風は、地表に生える草や木々の葉を揺らし、地表すれすれを吹き抜けた後、再び遥か空高く駆け上っていった。


 その名残とも言うべき冷たい空気が取り残された湖のほとりで、エストは静かに息をつく。


 イヴァンとヴァニア、双方が授業に出ており、それに出席している彼女もいない時刻となると、流石にエストは暇を持て余す。たいていは図書館で精緻な文字を書き連ねて勉学に勤しむことが多いのだが、今日はなんだか身体が重く、動くことが億劫だった。


 別に熱っぽいわけではない。単に疲れが出たのだろうと、心地よい風が吹くこの湖のほとりで、のんびりと時間を潰すことに決めたのだが……如何せん、眠い。


 睡魔が容赦なく自身を襲い、既に視界が半分闇に沈んだ状態で、エストはこれ以上眠気を耐えるのは無理だろうかと自問する。だが、こういった涼しげな場所で眠って、いいことがあった試しがない。一例では、翌日見事に風邪を引き、看病に明け暮れた彼女に多少なりとも移してしまった記憶がこびりつき、眠気に身を委ねそうな身体を頭が全霊で拒絶していた。


 だが、そんな努力もついに水泡に帰することとなり、エストはいつの間にか、見事にその睡魔に負けてその目蓋を閉ざしたのである―――…。
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