ワンドオブフォーチュンF

□I want to sleep embracing you closely.
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 心地よい風を孕んで宙へと舞い上がるマントのことなど気にも掛けず、ルルは疾走しながら湖のほとりへと急いでいた。


 静寂を好み、喧騒を嫌う彼はよくその場所で寛いでいるし、ルルも彼と似通った感じがする湖のほとりを好んでいる。ゆえに彼と恋仲になった今でもそこは彼と過ごす時間がもっとも長い場所だった。


 きっと本でも読んで待っているのだろうが、それでも早く会いたいという欲求に逆らえず、柔らかな土を蹴ってその場所へ急ぐ。そうしてたどり着いた先、予想を裏切る形で見つけた彼の様子にルルは思わず目を瞬かせた。


 ―――寝てる。


 脳裏に浮かんだ言葉が、必然的にルルに無意識とはいえ、慎重な動きをさせる。そっと近寄れば、綺麗な弧を描く長い睫毛が縁取る翡翠の如き双眸が隠れ、白皙の肌に睫毛の影がある。


 普段はエストのほうが大人びているからか随分とこちらのほうが幼いような感じを覚えるが、こうして無防備な寝顔を目の前に晒されるとを彼も子どもであることを強く感じる。


 くすくすと笑いながらエストの寝顔を堪能しているうち、ルルはついに悪戯心を覚えて彼の傍らにおいてあった魔道書を退け、エストの至近距離にまで歩み寄った。


「………えいっ」


 眠るエストの細腰にぎゅっと自らの腕を巻きつけ、ルルは幸せそうに笑みを零す。普段から彼の胸の中に飛び込んでいるとはいえ、いつも彼に怪我をさせてしまい文句を言われてしまうため、彼が眠っているときはかなりの大好機であることは間違いない。これを逃すとまた何かと文句を言われてならない気がしたので、逃す手はないと全力で甘える。


 幸せそうに彼の胸に頬を寄せてその温もりを感じていたルルは、やがて全力疾走してきた疲れなのか、ついに意識を手放した―――…。
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