ワンドオブフォーチュンF

□無駄なことと諦めたつもりだった、のに
1ページ/4ページ

 朝も、昼もない、闇の世界。………夜というのも、禍々しすぎて表現としては何か違う気がする。


 そんな世界に馴染む自分は、異端者であることがよくわかる。


 あの世界から唯一持ち込むことの出来た魔道書のページをぱらぱらと繰りながら、エストは息をつく。


「……今更、何を考えているんだか…」


 すべてを決断し、実行に移したのは紛れもない自分なのに。―――もう、あの笑顔を見ることが出来ないからと、後悔している自分が不甲斐なくて、自嘲が口元に零れる。


「………これで、良かったんだ」


 すべては生まれたばかりの自分には、避けられなかったゆえに起こった、この身を蝕む呪い―――。


 きっと普通に愛された子どもなら、平然と大人にせがむことが―――強請ることが出来るのだろう。けれど、狂った親元に生まれついた自分には、願うことすら罪に思えて。


 幸せなど望んではいけない。―――願ってはいけない。だから、ただひたすらに思っていた。


 ―――僕が世界から消えれば。存在自体が『ありえない』自分が、幸せを求めてはいけない、自分が。………すべてのひとの記憶から、消えてしまえれば、と。


 優しい眼差しも、暖かな温もりも―――すべて、自分には与えられてはならないものだから、闇を纏った自分が、その魔力が暴走することのない、深い深淵のなかで朽ち果てていければ、と。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ