薄桜鬼

□今日という日に負けない様に
3ページ/5ページ

「にしても、随分とひどい通り雨ですね」


 傘の小ささもあるからか、いつもより数段密着した体から伝わってくる熱が、身体の奥底にじんわりと何か暖かいものを生まれさせてくれる。ほんの少しだけ悪戯心を覚え、総司はふっと楽しそうな笑みを浮かべ、彼女の名を呼んだ。


「……ねぇ、千鶴ちゃん」


「はい、何ですか?」


 振り仰いだ彼女の髪を無造作に掴み、それに自らの唇を掠めた途端、それを計らずも近距離から目撃した千鶴は赤面する。そんな初々しい反応に薄く微笑を零しながら、総司は懐からそれを取り出した。


 瞳を伏せ、ひたすら羞恥を堪えていた千鶴は、自らの髪で遊ぶ年配の相手に困惑しつつも、ふいに髪が引っ張られるような感覚を覚えて顔を上げた。同時、満足そうな総司の顔を見つけ、いったい何なのかと眉間に皺が寄る。


「うん、見立てが間違ってなかったみたい。可愛いよ、千鶴ちゃん」


「え……」


 目を瞬かせ、不意に髪に触れた途端、そこに違和感を覚え、慌てて鞄から鏡を取り出す。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ