薄桜鬼
□今日という日に負けない様に
2ページ/5ページ
「……あ、通り雨ですね。沖田先輩は、傘は持ってきてないんですか?」
「うん。いつも家を出てくるのが遅いからね」
「…………」
どう返せばいいのか分からなかったのか、沈黙した千鶴に淡い笑みを投げ掛けながら、総司は言う。
「千鶴ちゃんはどうなの?」
「あ、私は折り畳み傘を持ってきてますから……よかったら、ふたりで使いましょうか?」
取り出した傘を顔のすぐ横で軽く振った彼女が、小首を傾げて尋ねてくる。彼女のそんな何気ない仕草にすら、胸を占める暖かい感情が、さらに熱を上げる。
「……それじゃあ、お言葉に甘えようかな」
「はい。それじゃあ、一緒に帰りましょう?」
丁寧に傘を広げた彼女の手からそれを取り上げ、総司は薄く笑う。
「こういうときは男に持たせてね。千鶴ちゃんがさすには随分大変でしょ?」
「……じゃあ、お願いします。沖田先輩」
ほのかに笑う彼女に了承の意を示し、総司はいつもよりいくらか歩幅を狭めて、ゆっくりと歩き出した―――…。