ワンドオブフォーチュンF

□幸せな時間は一瞬にして
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 手許にあるそれを睨みつけるように見詰めながら、ラギは大仰なため息をついた。その大げさとも言える嘆息を聞き止めたビラールは、ちらりと彼を一瞥するが、微苦笑するだけに留めてそっと悶々とするラギの手中にあったものからさりげなく視線を逸らす。


 そんな視線が向けられたことなど気づきもせず、ラギは手の中に収まる物体を見詰めた。


 それは間違いなく柔らかな素材で作られた人形―――であるはずなのだが、残念ながら日頃そういったものを作ったことのないラギは、見事に奇妙な形に成り果てたそれを呆然と見るしかなかった。首の辺りがもたげ、布を縫い合わせた糸の間隔が大きすぎて、中に詰め込んだ綿が顔を覗かせている。目として使ったビーズは上手く布に吸い付くように縫い合わせることが出来ず、ころころと人形の頬のあたりまで転がってしまっていた。


「………慣れねぇことなんかすんじゃなかった」


 ついにそれを放り出し、ラギはベッドの上に手足を投げ出すようにして寝転がった。次いでごろりと半回転し、うつぶせになった彼はがしがしと髪を掻き毟り、舌打ちをして呻く。


「……あー、ったく。こんなことで悩むことになるなんて思ってもねぇし」


 女性に触れられれば変身してしまう体質を持つ自分に、まさか一生守りたいと心の底から思える相手ができるなど、想像すらしていなかったのだ。迫る期日までに用意しないと、という気持ちが手許を狂わせ、元々そういった器用なことなどできない自分は見事に撃沈した。………ちいさなぬいぐるみ作りという手作り企画に。


 これ以上続けても成果など出るはずがないとぬいぐるみ作成は諦め、来るイベントの日―――ホワイトデーの前日が休日であることをカレンダーで横目に入れたラギは静かに立ち上がる。


「………あいつの喜びそうなもん、探してくるか」


 彼女の目を盗んで、街へと赴いて。
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