ワンドオブフォーチュンF
□幸せな時間は一瞬にして
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―――かくして。
満腹ゆえの安心感といえばいいのか、見事にふたりで寝こけてしまい見事に夕暮れになった景色の中で、ふたりは急ぎ足で寮への道を辿る。
「早く帰らないとご飯がなくなっちゃうわ!」
「そうだな」
しかし彼にとってご飯よりある意味重要な壮絶な悩みが胸中を占めていた。とどのつまりは、ホワイトデーのお返しが出来ていないということである。
タイミングなど考えずに突きつければいいのだろうが、それはなんだか嫌な態度な感じゆえに気が引ける。
難しい顔で沈黙するラギに、ルルはついに困ったように振り返った。
「ラギ、どうしたの? このままじゃ、暗くなっちゃうわ」
そうはいってももう充分暗い。日暮れに森の中ということも相まって、見事に光が僅かしか降り注がないその場所で、ラギは渋面のまま切り出した。
「……あの、な」
「? 何?」
「……………前の、お返しに」
懐から無造作に取り出し、ぐいと突き出したそれをルルは首を傾げて受け取った。ラギに開けてもいいかという確認も無く、ルルはそのまましゅるしゅると小箱に申し訳程度に巻きついたリボンを解き、開く。
「………わぁ、綺麗なネックレスだわ!」
嬉しそうに微笑んだルルに、成功したことを悟ってラギは胸を撫で下ろした。
「これ、バレンタインデーのお返しなの?」
「そうだけど……なんだよ?」
「だって、上手く作れなかったのに、こんな高価そうなもの貰っていいのかな……って」
「……買っちまったんだから文句言わずに受け取れ。今更店に返しにいけるか」
ルルの言葉に思わず剣呑な眼差しになりつつ、ラギは三割方不機嫌そうな声でそう言った。
「………そうだわ、ラギ! 今すぐ私に何かしてほしいこと、ある?」
「んなもん―――」
ない、と言おうとした矢先、見事に空気を壊すような音が鳴り響いた。
「………」
「………食堂、行きましょう。話しはそれからだわ!」
諸々の恥ずかしさに耐えるラギに、なんとかそれだけ言って、ルルはラギの手を掴み駆け出した―――…。