ワンドオブフォーチュンF
□I just wanted an excuse to talk to you.
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昼下がりの空き教室―――。
高く昇った陽が緩やかに降り始める中、その陽が零す白光に直接本が当たらないよう注意を払いながら、ほんの少しだけ開いた窓から入り込む生温い風に頬を撫でられる。
自身以外誰もいないからか、静謐な雰囲気の漂うその場所で、開いた本のページを繰っていたエストはやがて重い息をついた。
何故だろう。いつもと同じ事をしているというのに、胸の奥に穴が開いたかのような物足りなさが襲う。それがなんだろうかと思いつつ、エストは本を読むのを止そうとしおりを挟み、そっと本を畳んだ。
体温の移った椅子から立ち上がり、本を抱えてすたすたと扉のほうへ向かう。本を読むという目的を止めた今、この教室に用はない。
扉に手を掛けて、慣れた手つきで開ける。そうして空き教室の向こう―――廊下へと足を踏み出したエストは振り返ることも無く空き教室の扉を後ろ手に閉める。
そうして無人となった空き教室には天井の世界のような静寂が広がり、仄かなぬくもりの残された椅子が、空気に触れて緩やかに熱を失っていくだけだった―――…。