ワンドオブフォーチュンF

□I just wanted an excuse to talk to you.
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 今日はもう帰ってしまおうか。


 そんなことをぼんやりと考えながら、エストは歩く。


 記憶が正しければ今日の授業はすべて済んだはずだし、学院内を彷徨っている理由もない。だが、胸のうちを占める空虚な何かが、その思考にセーブを掛ける。


 いったい自分はどうしてしまったのだろうかと、少しだけ自身のことがよく分からなってきたエストが、ふとざわめく音を聴いて顔を上げた。


 足を止めずに歩くエストの向こうから、談笑しながら数人の女子生徒が歩いてくる。その中のひとりは、淡い薄紅色の髪をしていた。同時に、頭の中でなにかが閃く。


 ―――あぁ、そうか。


 胸の虚無感が何なのかを悟り、エストは薄く笑った。気づけばあまりにも単純で……かつてなら、愚かしいと否定したそれは、エストに次の行動を促す。


「………いったい、何処にいるんだろう」


 そうぼやきながら、エストは歩く。教室を覗き、廊下を見回し―――…そうして。
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