ワンドオブフォーチュンF
□I'm falling in love with him, this person who keeps hurting himself to protect the people he cares about.
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晴れた空に、陽を遮る灰白の雲はない。その空の下、楽しげな会話を交わす生徒たちや仕事をこなすために歩き回るプーぺの姿を尻目に、ルルはいつものように、湖のほとりへと駆けて行く。
やがて視界の片隅に映る、緩やかに波打つ黒髪を見つけてルルの表情はさらに喜色を称えたものとなる。木陰に座り、ただひたすら本のページを繰っていたその黒髪の持ち主は、ついにこちらに気づいて顔を上げた。
「……随分と呼吸が乱れてますね。そこまでして慌てて来なくても、僕はまだ待てましたが」
「そういうつもりじゃないわ! これは私の我侭よ、エストの顔が早く見たくて、走ってきたんだもの!」
「………っ」
息を詰め、言葉を失ったエストはふいと顔を横に背けた。その耳が仄かな熱を持っているのに気づいて、ルルはますます喜色を露にする。
何とか顔の熱を落ち着けたエストは、そんなルルの表情を見てやや居心地悪そうにしながらも、黙って本に目を落す。それが少しだけ寂しくて、ルルは彼の関心をこちらへひきつけようと必死に話題を探した。
「そういえば、今日はエストと同じ講義を受けれるのよね?」
「……そうですね。技術の授業が一緒のはずですが」
頷くエストが、少しだけ首を傾けて問いを投げ掛ける。