ワンドオブフォーチュンF
□I'm falling in love with him, this person who keeps hurting himself to protect the people he cares about.
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「……ルルさん、イヴァン先生たちに診て貰いましたし、少し安静にしていればちゃんと目覚めますから。……あなたも、少し眠ってください」
「………エストが目覚めるまでは、此処に居させてください」
硬い声音でそれだけ返し、ルルは眠るエストの手を握る。
時刻は深夜にも差し掛かろうという夜中だというのに、自室に戻ることもせず、睡魔に身を任すこともせずに、ルルは椅子に腰掛けていた。
「………分かりました。ですが、外にいますから、エストさんが目覚めたら、交代ですよ?」
「……ありがとうございます。エルバート先生」
そうして無言で扉の向こうに消えたエルバートの姿を目で追うことも無く、ルルはエストの寝顔を見下ろし続ける。
白い肌に長い睫毛の影が落ち、その睫毛が飾る鮮やかな新緑色の瞳は、宝石のようなその輝きを封じている。
まだあどけなさが際立って少女めいた寝顔とは程遠い、辛辣な言葉と凜とした眼差しが再び向けられるのを、ただこうして待ち望んでいる。
「……エスト、大好きなの…」
大好きだから、彼の異変を早く察知したかった。けれど、自分のことばかりでその異変に気づけなかった。
ごめんなさい。ごめんなさい。―――何度もその言葉が頭の中を反芻する。
自分のことばかりで、あなたの異変に気づけなくて―――ごめんなさい、と。その言葉だけが。