ワンドオブフォーチュンF
□護りたいんだ、誰よりも。
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「……エスト?」
「……いますぐ、ルルを離してください。そうすれば、どうやってこの学院に入り込んだのかは聴かないであげます」
本を開き、険を帯びた目で佇む黒衣の姿を見つめる。その中のひとりが、エストの臨戦態勢を本気と見て取って、声を荒げた。
「な、何故だ! お前は、我々の―――」
「あなたがたが僕をどう思っていようと、僕には意志がある。―――あなたたちとは、違う」
自分のような存在を増やすことなど望んでいない。こんな世界の理を外れたような存在が、数十、数百と増えるなんて、想像したくも無い。
何よりも。―――その中のひとりに、誰よりも大切な彼女が名を連ねるなど、許せるはずが無い。
「帰ってください。僕が、ルルを連れて行くことを許さない」
剣呑に煌いたエストの緑玉を嵌め込んだような瞳をじっと見つめる男が、苛立ったように声をあげる。
「ふざけたことを―――」
「ふざけているのはそちらです。……あんな計画は、壊れてしまったほうが世のためだ」
この世界の輪廻を狂わすものなど、いらない。