ワンドオブフォーチュンF
□護りたいんだ、誰よりも。
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鏡の魔獣のところまでたどり着き、その中に身体を躍らせた。瞬間に変わる景色と共に、頭に焼きついた地図の通りにエストは動く。
「―――鏡の魔獣!」
悲鳴に近い叫びだったかもしれない。誰も通ること無い刻限、穏やかな眠りに身を任せようとしていた鏡に棲む赤き獣は、驚いたように眼を剥いた。
「お願いします。僕を通してください! ―――ルルが、危険なんです…!」
悲壮な表情で紡ぎだされる言葉が、切実な思いと行き場のない焦燥を孕んで魔獣に向けられる。
「お願いです…! 彼女は、彼女だけは、失いたくないんだ!」
語気が荒れ、普段使う口調ではなくなっていることすら、エストは気づかない。その必死の様子に、鏡の魔獣はついにエストを導くように静かに目を閉じた。途端、魔獣の姿が失せ、見慣れないがどこか自分の使う寮と似た光景が鏡に映し出される。
エストはその中に突っ込み、再び駆け出す。―――鏡を抜ける最中に、ありがとうと、掠れた声で紡いで。