ワンドオブフォーチュンF
□護りたいんだ、誰よりも。
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―――こそ、上手く―――…!
がばりと起き上がり、エストは額に浮かぶ汗を拭った。月は既に西に傾き始めている。そろそろ夜明けか。
嫌な夢を見た。今にも誰かを呪うような、しわがれた男の声と、悲嘆にくれて泣き叫ぶ少女の声。……そして、何かが狂ったような哄笑。
なんなのだ。あの夢は。
唇を噛み締め、かぶりを振る。だが、そんなことをしても焼きついた映像は離れない。
額に浮かぶ嫌な汗を拭い、騒がしく鳴る胸を落ち着けて、エストは寝台を降りる。
もう眠る気にはなれず、クローゼットを開き、そこに納まった服に手を伸ばす。だが、刹那肌が粟立つような感覚を覚え、エストははっと窓の向こうへ視線を注ぐ。夜闇に包まれたその向こうに見える無数の光が、柔らかく降り注いでいる。だが、それを堪能している場合ではないと、早鐘を打って心臓が警鐘を鳴らしていた。
「……この、気配…!」
―――まさか。まさか、そんなはずが。
だが、頭の中で否定しても、今起きていることが変わるはずもない。エストは手早く着替え、慌てて扉を蹴るようにして自室から転がり出る。
呼吸が苦しい。足が鉛のように重い。それは、きっと自分に植え付けられた恐怖の記憶がそうさせるもの。だけど、今はその記憶によって身体を自由に動かせずにいる自分が厭わしかった。