ワンドオブフォーチュンF

□Thank you for teaching love.
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 紙にペンを滑らせる音が響き、精緻な文字が連ねられていく。


 教書を並べ、机に向かって勉学に勤しみながらも、エストの脳裏には今日一日見ることの叶わなかった少女の姿がちらついていた。


 稜線の向こうへと沈んでいく太陽はその丸みを失って不恰好に潰れ、さらに窓の向こうに見える尖塔に刺し貫かれて断末魔の叫びをあげている。鮮血が霧散し、鮮やかな赤に染め上げられた空の向こうから、紫の何かが視界を掠めたのに気づいてエストは顔を上げる。


 よくよく見れば、それは本来青色をしたもので、黄昏の空を背負ってこちらに飛んでくるからか紫に見えるだけだった。エストは窓に近寄り、そっと鍵をはずして窓で隔てられていた外に手を伸ばす。その指先に、それ―――パピヨンメサージュは静かに止まった。


 静かにパピヨンメサージュを広げて、エストはそこに連ねられた文字を見て即座に机に並べられた教書を片付け始めた。


 いつものように媒介である魔道書ひとつ抱え、扉に手をかける。そうして、エストはゆっくりと扉の向こうへと足を踏み出して、パピヨンメサージュに指定されていた場所を目指して、その場を後にした。
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