薄桜鬼
□揺る樹から落ちた羽根
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頬を撫でる生温い春風が、木々の間を通り過ぎてさわさわと音を立てる。その木々が巡る生命力で麗しく開かせた花々は、彼女が彼の次に愛しているものだ。
だが、もう老樹となったこの樹は、そろそろ命尽きる頃だろう。―――羅刹になった、彼と同じように、そろそろ。
だが、思い出の桜と違うとはいえ、思入れのある花なのだ。だからこそ、千鶴は枯れて欲しくない、とふいに思ってしまった。
「………私の、力を分けてあげる」
幼い頃から、死別した義理の父―――綱道は言っていた。誰かのために祈ってやるのも、立派な医療だと。
「……私はね、一さんに沢山力貰ってるから、その力を、少しだけ分けてあげる。だから、少しでも長く、花をつけてね―――」
樹の太い幹に頬を寄せ、囁きに似た声で、桜にそう語る。その穏やかな時間さえもが、千鶴の記憶に段々と美化されていくのだろうけれど、緩やかに刻まれていく―――…。