薄桜鬼

□揺る樹から落ちた羽根
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「………何処へ行った…?」


 呟きながら、一は辺りを見回しながらゆっくりとした歩調で目的のひとを探し回る。たまに早く帰ってきても、その人物がいないと胸に焦燥が湧き上がるのは難点だ。……これからも苦労ばかりが耐えなさそうで、少しばかり気が重い。


 そんな彼の目の前に、いつの間にか鮮やかな薄紅の花が、両側に並んで道を作り出している。


 ―――桜、か。


 そういえば、と一はその並木道を歩きながらぼんやりと思い起す。


 一厘の桜の花から舞い落ちた儚い命の欠片を、かつて請われて愛しき彼の人へ渡した思い出が、朧気であるものの彼の脳裏に蘇った。


 ―――あれから、もう…随分経ったな…。


 吸血衝動を抑えようと彼女を掻き抱いた思い出も、血風と鉄刃が愛しい人の頬を撫でるかもしれないというのに、その思考さえ思い浮かばず、彼女を引き連れて敵陣に踏み込んだ思い出も、桜の花びらのささやかな記憶に釣られるように、芋づる式に掘り起こされていく。
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